第10話 銭湯の間取り図イラストを描く女性「自ら銭湯を経営したい!」
銭湯はお好きですか? 暖簾をくぐれば番台さん、湯船を覗けば彩り豊かなタイルたち、風呂上がりにはビン牛乳…。
家のお風呂にはない独特の空間。そこには、ワクワクするような非日常的な楽しみが潜んでいるようです。
しかし、京都市内に約100軒あるといわれる銭湯も、昨今では、ひとつ、またひとつと
後継者が見つからないなどの理由から、廃業を余儀なくされるケースも少なくありません。
そんな中、「銭湯という可能性を秘める場所を未来へ残したい」という想いから
銭湯の間取り図をイラストで描き、さらには自ら銭湯を経営したいと考える一人の女性がいます。
それが、今回ご紹介する物件希望者、大武 千明(おおたけ ちあき)さんです。
今回は取材場所として、京都・五条高瀬川近くの「サウナの梅湯」さんにご協力いただきました。
20代の店主が後を継ぎ、銭湯ライブなど様々な取り組みを実施している、大武さん一押しの銭湯です。
銭湯の間取りをイラストで描いた「ひつじがのぞいた銭湯」
1985年生まれ、建築士の資格を持つ大武さん。現在は役所の非常勤職員として勤務しています。
そんな大武さん、2013年から京都の銭湯に惹かれ、お気に入りの銭湯を見つけて巡るようになりました。
複数の銭湯を知るうちに、それぞれの個性を感じ、ひとつひとつの魅力を広く伝えたいと考えるように。
「銭湯の中で写真は撮れない。ならば建築の経験を活かして、間取りを楽しいイラスト調にして描こう!」
情報をFacebookで配信したところ、人気を博し、2014年には「らくがきひつじ」というペンネームで
「ひつじがのぞいた銭湯」というFacebookファンページを開設。同年末に小冊子を作成・販売。
流通を持たない中、200冊以上も売りあげるという大きな反響を呼びました。銭湯の天井をぱかっと開けて
上から覗いたような可愛い間取り図のイラスト、冊子を手に取るとついつい銭湯に行きたくなります。
銭湯が在り続ける未来を一緒に見つけ出したい
大武さんは、心から応援したいと感じる銭湯を厳選して、一軒一軒に想いを込めて描いています。
「今まで描いた銭湯のうち5軒が廃業になってしまったのですが、泣いてしまうくらい悲しくて。
一緒に最後に何かでればと思い、銭湯の方にお話をして。うち2軒の方と、せめて皆の記憶の中に
その銭湯での思い出が残り続ければと、最終営業日に来られたお客さんたちに
私の絵をポストカードにしたものをプレゼントさせていただいたこともありました。」
大切な銭湯の廃業を目の当たりにした辛い経験があるからこそ
“持ち主が望む限り、銭湯が在り続ける未来を一緒に見つけ出したい”
そう強く想うようになりました。
印税を”恩返し”の表現のひとつとして、銭湯の運営費に
そんな想いで描き続ける大武さんの間取り図イラストは、どんどんと反響が大きくなり
実は、2016年2月下旬「ひつじの京都銭湯図鑑」という題名で出版することが決まっています。
販売の予告をTwitterでしたところ、780件以上のリツイートを生む大反響に。
なんと大武さんは、そこから得られる印税を全て投資して、自ら銭湯を経営することで
“これからの銭湯の新しい在り方” を実践的に追究したいと考えているのです。
「印税と言っても、きっと雀の涙ほどしかなく、銭湯の運営費を賄うには自己負担も多いと覚悟しています。
印税を全て投資するのは、行動そのものが、”恩返し”の表現のひとつだと考えているからなんです。
これまでお世話になった銭湯の皆さんや、活動を応援くださる方々へ感謝の気持ちを込めて。」
「銭湯には可能性がたくさんあります。実際今でも、若者向けの企画を積極的に展開している銭湯や
子育てママが訪れたくなる企画や、子供が楽しめるアイテムを多く用意している銭湯もあるんですよ。
天窓から降りる光やタイルに跳ねる音など、空間の特性を活かすことで、”銭湯”として開く日だけでなく
アーティストの製作場所など別の切り口で訪れていただける日を、設けてみても良いかもしれません。
あらゆる可能性を掛け合わせて、銭湯の新しい未来を切り開きたい。」
新しい銭湯の在り方を実体験を持って切り開きたい
柔軟な発想とともに、大切なものを先陣を切って守り続けたいと考える大武さん。
お一人での運営、またはスタッフ一名を雇った二名体制の運営を検討しているため
小さな規模の銭湯が好ましいかもしれません。
また、資金面の負担を軽くするために、現在の役所非常勤の仕事を続けつつ
週に三日の休みを使って、銭湯経営を行えるように仕組みを考えていきたいと思っています。
そんな働き方自体も新しい事例となり、銭湯が柔軟に受け継がれやすい環境になれば良いですね。
もし京都市内で「廃業を予定しているのだけど、良かったらうちの銭湯を借りて自由に運営してみて」
という貸し主の方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、京都物語商店までお問い合わせください。
温故知新で描く新しい未来が広がりますこと、心より願っています。
(ライター:FootPrints 前田 有佳利)