第12話 地域ぐるみで放課後の子どもの遊び場をつくりたい。


子どもの時に出会った大人のことを、覚えていますか?

 

例えば、学校からの帰り道、

挨拶をするといつもかならず庭の草木の話を教えてくれた近所のおじちゃん。

お家にたまに遊びに来ては、学校のことや遠くの国のこと、

知らないことをたくさん教えてくれた年の離れたいとこのお姉さん…。

 

年の離れたひとはみんな、大きくみえて、その人たちと出会う度に

じぶんの世界が広がった感覚を受けた人も多いのではないでしょうか?

 

そんな原体験を持っているのが、今日ご紹介する村上弘さんです。

現在、会社員として働きながら任意団体asuiroを立ち上げ、

学校終わりの放課後の時間に、「まち」まるごとを子どもたちの居場所にする

「MACHIGOTO After School」の拠点となる建物を探していらっしゃる方です。

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「こどもたちは、周りとの関わりによって多様な価値観を理解し、自分を育んでいきます。

ひとりの大人との出会いが、その子の未来に繋がる、

驚くほどに重要な出会いになることだってあるんです。

これからの変化の激しい複雑な時代を生きていくこどもたちにも、

自分で未来を選択し、自由にのびのびと生きていってほしい。

だから、その原点となる多様な大人や経験と出会う機会を、子どもたちに届けたいんです。」

 

 

「まち」全体で、多様な価値観のなかでこどもたちを育てたい

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「こんにちは~!!」

夕方になると、集まってくる子どもたちの声が『MACHIGOTO After School』の拠点に響き渡る。

やってきた子どもたちは、大きな本棚で本を読んだり、畳の上で寝転がって絵を書いたり。

「八百屋さんに、買い物に行くよ!」そう声をかけると、

一緒に近所の八百屋さんに買い物に行き、嬉しそうに出迎えてくれたおじさんに野菜の話を聞いたりする…。

 

「まち」のあちこちにこどもが飛び出し、そこに暮らす大人と関わっていく、

そうやって地域ぐるみでこどもを育てていく様子を、思い描いているのだそう。

 

「ぼくたちがすべて用意するのではなく、地域にある資源を使って、そこにいる人たちとやっていく。

社会を感じる経験は遠くにあるのではなく、身近に存在するもの。

まちをまるごとを使えば、そんな多様な価値観に触れる経験が日常の中でできると考えているんです。

その拠点として、こどもたちのそしてみんなの場所を持ちたいと考えています。」

 

「こどもたちを通して地域内での関わり合いが深まる、地域にとってもプラスになる関わり合いをしていきたい。」

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前職では神戸YMCAで子どもたちや地域に関わる仕事をしていた村上さん。

仕事で地域の方と関わる中で、こどもたちのために何かをしたいと思っている方は、

想像以上にたくさんおられることに気が付いたんだそうです。

 

「役割があり、関わり方が明確ならば、喜んで協力してくださる地域の方も多かったんです。

だからこそぼくたちのプロジェクトは、単発の交流プログラムのような短期的な関わりではなく、

こどもたちと長期的な関わりをしていく大人を増やしていきたいんです。

そうすれば、こどもを通して今までになかった大人同士のつながりが生まれる。

そんなふうにこどもたちは、人と人を繋げ地域を元気にする力もあると思うんです。」

 

こどもたちを起点に地域の方々が繋がる、両方にとってうれしい形。

それに加えて、こどものご家族にとってもうれしい形にしたいのだそう。

 

「このプロジェクトでは、学童保育としていただく月会費と、

プラスでイベントやプログラムの参加費をいただくつもりですが、

来たいと思っているこどもたちのうち、できるだけ多くのこどもたちに

来てもらえるような形にしたいと思っています。

 

今ある資源を使って、地域の方々と一緒にこどもたちの居場所をつくることで、

ぼくたちがあれもこれも手掛けなくてもよくなるから、ご家族にお願いする負担も軽減できる。

地域とこども、そしてそのご家族。みんなが豊かになる形を作っていきたいです。」

 

取材①-2

『MACHIGOTO After School』に来た子どもが架け橋役となり、

大人、高齢者、子どもなど今まで交わらなかった世界が交わって、地域に新たな繋がりが生まれる。

そんな可能性も村上さんは考えています。

 

「今は小学生も多い北区で探しています。

まちづくりや子どもの教育に関する団体も多く、協力体制のある地域性にも魅力を感じています。」

 

建物を探すうえで一番大切にしているのは、その建物がある地域に

一緒に子どもたちと関わることを楽しんでくれる方たちがいるかどうか、なんだそうです。

 

「あとは、子どもたちがそこにいて心地良いと感じられるような開放的な空間であれば嬉しいですね。

内装は自分たちの手で作っていけたらと考えています。」と笑顔で話してくれた村上さん。

 

 

そんな村上さんたちの相棒となってくれる地域と建物との素敵な出会いがありますように、と願っています。

(ライター:大西芽衣)

第11話 新たな販売場所と固定の拠点を。旅する移動式タコス屋さん


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どこの国の料理がお好きですか?やっぱり日本食?それとも中華、フレンチ、イタリアンなど。

多数の各国料理がある中で、世界中から高い評価を受け、多くの方から愛されているにも関わらず

日本では、なぜかあまり知られていないという、国の料理があることをご存知でしょうか。

 

タコスといえば、ピンとくる人もいるかもしれません。そう、それは「メキシコ料理」です。

今回紹介したいのは、そんなメキシコの料理や文化に惹かれ、その魅力を届ける伝道師として

タコス屋の移動販売を営む ELCALAVERA(エルカラベラ)オーナー 西田 将伸(にしだ まさのぶ)さんです。

 

西田さんは、活動の幅を広げるべく、移動販売の新たな場として駐車場や空き地の一部を借りること、

さらには、少し先の展望として、拠点となるキッチン付きの固定店舗を構えることも検討しています。

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移動販売のメキシコ料理のタコス屋 ELCALAVERA(エルカラベラ)とは

ではまず、西田さんが営まれる移動販売のお店を覗いてみましょう。

タコスをはじめ、ナチョスやワカモレなど、お皿一枚に乗るサイズで包んで食べやすい

メキシコ料理のカジュアルフード。それらを移動式で販売するお店、ELCALAVERA。

赤と白のオシャレな車を目印に、京都を舞台として、3年前から活動を開始しています。

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生地は、香ばしさを味わってもらおうと、トウモロコシ100%というこだわり。

注文が入ってから、車の中の鉄板を使って、目の前で生地をクレープ状に焼き上げます。

ELCALAVERAのように、生地を一からつくって、その場で焼き上げるお店は珍しいようです。

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メキシコ料理に詳しくなくても、目の前にいる西田さんにメニューについて質問をすると

「タコスは生地が柔らかめで、トスターダスはパリッとした固め、これは・・・」とわかりやすく教えてくれます。

生地を選んだら、日替わりで常備約6種類ある具材から、好みのものを1つ選択します。

生ハムとアボカド、豚のトロ煮、鶏とインゲン豆のスパイス焼など、様々なオリジナル具材たち。

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さらに、食べる時には、これまた手作りのこだわりサルサをお好みで加えながら。

ピリッとした辛さやマイルドな辛さが、美味しさを引き立てて、もう癖になりそうです。

移動式販売を中心に、依頼があれば、ケータリングやイベントでの出店など

各方面へとフットワーク軽く、活動を広げています。

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西田さんがメキシコ料理に惹かれた理由

アウトドアが好きで、バックパックを担いで各国へ一人旅もしていたという西田さん。

偶然募集の告知を見つけたことをきっかけに、京都のメキシコ料理屋で10年間働いていたそうです。

働きながら自身でメキシコ料理の勉強を進め、実際メキシコを訪れることもありました。

 

知れば知るほど、メキシコ料理にも、国の文化にも魅了されていき

逆境さえも楽しみながら乗り越えようとする、陽気で力強い国民性にも惹かれていきました。

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「メキシコの本質的な魅力を、食文化を介して、日本の人々に届けたい」そんな想いから

“待ち”ではなく”攻め”として、移動式というスタイルで、独立して運営をはじめました。

 

「タコスは、現地では家庭料理として親しまれているものなんです。

だから、飾らず合理的で、健康的でありながら毎日食べたくなる美味しさを持っています。

高級料理ではありませんが、掘り下げてちゃんと見れば、とてもよく出来た料理なんですよ。」

 

新たな販売場所と固定の拠点を求めて

他国の文化を上手に受け入れ、融合して日本らしさを高める、そんな京都だからこそ

西田さんのような、他文化の学ぶべきエッセンスを地域に注いでくださる存在が重要なのではないでしょうか。

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移動販売の新たな場として、駐車場や空き地の一部をお貸しくださる地主の方や

固定の拠点として、キッチン付き店舗を構えることができる物件をお貸しくださる家主の方、

西田さんの想いに共感いただけるようでしたら、ぜひ一度京都物語商店までお声掛けください。

ご一緒に、京都から世界に繋がる、新たな文化を発信していきましょう。

(ライター:FootPrints 前田 有佳利

第10話 銭湯の間取り図イラストを描く女性「自ら銭湯を経営したい!」


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銭湯はお好きですか? 暖簾をくぐれば番台さん、湯船を覗けば彩り豊かなタイルたち、風呂上がりにはビン牛乳…。

家のお風呂にはない独特の空間。そこには、ワクワクするような非日常的な楽しみが潜んでいるようです。

しかし、京都市内に約100軒あるといわれる銭湯も、昨今では、ひとつ、またひとつと

後継者が見つからないなどの理由から、廃業を余儀なくされるケースも少なくありません。

 

そんな中、「銭湯という可能性を秘める場所を未来へ残したい」という想いから

銭湯の間取り図をイラストで描き、さらには自ら銭湯を経営したいと考える一人の女性がいます。

それが、今回ご紹介する物件希望者、大武 千明(おおたけ ちあき)さんです。

 

今回は取材場所として、京都・五条高瀬川近くの「サウナの梅湯」さんにご協力いただきました。

20代の店主が後を継ぎ、銭湯ライブなど様々な取り組みを実施している、大武さん一押しの銭湯です。

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銭湯の間取りをイラストで描いた「ひつじがのぞいた銭湯」

1985年生まれ、建築士の資格を持つ大武さん。現在は役所の非常勤職員として勤務しています。

そんな大武さん、2013年から京都の銭湯に惹かれ、お気に入りの銭湯を見つけて巡るようになりました。

複数の銭湯を知るうちに、それぞれの個性を感じ、ひとつひとつの魅力を広く伝えたいと考えるように。

 

「銭湯の中で写真は撮れない。ならば建築の経験を活かして、間取りを楽しいイラスト調にして描こう!」

情報をFacebookで配信したところ、人気を博し、2014年には「らくがきひつじ」というペンネームで

ひつじがのぞいた銭湯」というFacebookファンページを開設。同年末に小冊子を作成・販売。

流通を持たない中、200冊以上も売りあげるという大きな反響を呼びました。銭湯の天井をぱかっと開けて

上から覗いたような可愛い間取り図のイラスト、冊子を手に取るとついつい銭湯に行きたくなります。

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銭湯が在り続ける未来を一緒に見つけ出したい

大武さんは、心から応援したいと感じる銭湯を厳選して、一軒一軒に想いを込めて描いています。

「今まで描いた銭湯のうち5軒が廃業になってしまったのですが、泣いてしまうくらい悲しくて。

一緒に最後に何かでればと思い、銭湯の方にお話をして。うち2軒の方と、せめて皆の記憶の中に

その銭湯での思い出が残り続ければと、最終営業日に来られたお客さんたちに

私の絵をポストカードにしたものをプレゼントさせていただいたこともありました。」

 

大切な銭湯の廃業を目の当たりにした辛い経験があるからこそ

“持ち主が望む限り、銭湯が在り続ける未来を一緒に見つけ出したい”

そう強く想うようになりました。

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印税を”恩返し”の表現のひとつとして、銭湯の運営費に

そんな想いで描き続ける大武さんの間取り図イラストは、どんどんと反響が大きくなり

実は、2016年2月下旬「ひつじの京都銭湯図鑑」という題名で出版することが決まっています。

販売の予告をTwitterでしたところ、780件以上のリツイートを生む大反響に。

 

なんと大武さんは、そこから得られる印税を全て投資して、自ら銭湯を経営することで

“これからの銭湯の新しい在り方” を実践的に追究したいと考えているのです。

「印税と言っても、きっと雀の涙ほどしかなく、銭湯の運営費を賄うには自己負担も多いと覚悟しています。

印税を全て投資するのは、行動そのものが、”恩返し”の表現のひとつだと考えているからなんです。

これまでお世話になった銭湯の皆さんや、活動を応援くださる方々へ感謝の気持ちを込めて。」

 

「銭湯には可能性がたくさんあります。実際今でも、若者向けの企画を積極的に展開している銭湯や

子育てママが訪れたくなる企画や、子供が楽しめるアイテムを多く用意している銭湯もあるんですよ。

 

天窓から降りる光やタイルに跳ねる音など、空間の特性を活かすことで、”銭湯”として開く日だけでなく

アーティストの製作場所など別の切り口で訪れていただける日を、設けてみても良いかもしれません。

あらゆる可能性を掛け合わせて、銭湯の新しい未来を切り開きたい。」

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新しい銭湯の在り方を実体験を持って切り開きたい

柔軟な発想とともに、大切なものを先陣を切って守り続けたいと考える大武さん。

お一人での運営、またはスタッフ一名を雇った二名体制の運営を検討しているため

小さな規模の銭湯が好ましいかもしれません。

また、資金面の負担を軽くするために、現在の役所非常勤の仕事を続けつつ

週に三日の休みを使って、銭湯経営を行えるように仕組みを考えていきたいと思っています。

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そんな働き方自体も新しい事例となり、銭湯が柔軟に受け継がれやすい環境になれば良いですね。

もし京都市内で「廃業を予定しているのだけど、良かったらうちの銭湯を借りて自由に運営してみて」

という貸し主の方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、京都物語商店までお問い合わせください。

温故知新で描く新しい未来が広がりますこと、心より願っています。

(ライター:FootPrints 前田 有佳利